大統領選に見るアメリカの凋落
ヒロ 2016年09月28日 10:00
ヒラリー クリントン氏とドナルド トランプ氏の第一回目の討論会の影響力は凄まじく、史上最高のソープオペラに1億人が釘付けになり、どちらがどうだったという論評にスポーツバーでも盛り上がったのではないでしょうか?

討論会の内容については報道の通りですのでそちらを参照いただくとして、なぜ、この二人がここまで勝ち抜き、アメリカでは史上最低の大統領選と自らを酷評しながら史上最高の視聴者を集めたのでしょうか?私はここに老いつつあるアメリカを見て取っています。

民主、共和のそれぞれの予備選ではそれなりの候補者はいました。特に共和党は乱立乱戦模様で的を絞りにくいほどでありました。また、それなりに知名度がある候補者も数多くいましたし、大所高所からアメリカのビジョンを掲げた候補もいました。が、そのようなまじめな候補者はことごとく敗退し、エンタテイメント性があり、楽しい候補者が残ったとも言えます。これではラスベガスの三文劇場で見る芝居のようなものであります。

なぜ、この二人が残ったのか、私なりのポイントは三つあります。

一つは圧倒的な知名度をベースに「史上初」の冠がつく二人である点でしょうか。「女性大統領」対「政治家ではない候補」であります。オバマ大統領が当選した時も黒人大統領という史上初の冠がついています。アメリカは開拓主義ともいわれ、何事もチャレンジし、新たな分野に手を伸ばしていくDNAがあります。世界を見てもこの体質は他国には見られない独特のリーダーシップであります。

私はこれは国民が求める刺激だと思っています。その刺激は強烈であればあるほど注目を浴びるという点で今回の二人はまさにその枠にピッタリとも言えそうです。

二つ目は回顧主義であります。方やチャレンジ精神と開拓主義と言いながら、実は古き良きアメリカを忘れらないアメリカをそこに見て取れます。例えば最近のアメリカの映画を思い出してください。多くのヒット作は過去大ヒットしたものの続編やシリーズものが多くなっています。ラジオ局は60年代、70年代、80年代のヒット曲を流す専門局が増えています。決して90年代のヒット曲ではないところがポイントです。これは年齢層でみると40代半ばから上の人達が若いころに楽しんだ時代でそれだけその年齢層のボイスが強いということが考えられます。

三つ目に私はリーマンショックが与えたアメリカの変化を掲げたいと思います。2006年の住宅バブルのピーク、そして、2008年の危機でアメリカが経験したことは住宅を取得するゴール達成感、そして一部の人はそれをはく奪された現実であります。つまり満足なり不満足なりの達成に伴う燃え尽き症候群が国民全体を広く覆ったことがあります。わかりやすい例えならば大学入試で志望校なりやむを得ない選択なりをした段階でそれまで学業に燃えてきたあの青春が終わるということと同じでしょう。
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また、アメリカンドリームである3大自動車メーカーの2つが潰れ、再生した会社において賃金が低く抑えられる新時代のトレンドを作り上げたことはアメリカ産業界全体にあっという間に広がりました。

イエレンFRB議長が雇用統計に必ずしも満足しないのは平均賃金が上がらないから、とされますが、これは日本でも同じことが起きたわけで当然、予期できた事態であります。つまり、アメリカがディスインフレから場合によりデフレ化する予兆すらあり、国民は肌でその先行きを感じているのだろうと思います。

そうなれば「世界のことより私の生活」と思う中流が声を上げるのは当然でしょう。アメリカといえばエスタブリッシュ層など知的イメージが先行することもありますが、実態は99%の中流のマインドが大きな流れを作っています。それゆえ、シリアよりもロシアよりも北朝鮮よりもウォールマートの安売りに行き、ダラーストアでたらふく買い物をして、週末、コストコでガソリンを入れることの方が重要なのであります。

よって、あとひと月強でこの長い戦いも終わるわけですが、どのような結果になろうともアメリカの内向き志向はより強くなり、世界の中で超大国としてのリーダーシップを期待するのは無理なのだろうと思っています。日経の社説は「米大統領候補は世界への責務を忘れるな」という仰々しい内容でありますが、それは時代錯誤であって、今我々が声を上げなくてはいけないのは世界の新調和とそのニューリーダーシップではないでしょうか?

2017年から世界のピクチャーは大きく変貌する、これが私の見立てです。そして日本はもっと自立しなくてはいけない時代に突入するでしょう。我々にとっても大きな幕開けとなりそうです。
(記事引用)