ドナルド・トランプ政治の骨格コールドマン~
大富豪、GS、将軍… トランプ氏、偏る「3G」政権
ワシントン=佐藤武嗣、五十嵐大介 ニューヨーク=中井大助
2017年1月8日05時08分朝日デジタル 
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 トランプ次期米大統領は、20日の正式就任まで2週間を切り、新政権の陣容を固めた。政治経験のない「異端児」の組閣には、大富豪(Gazillionaire)、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)という三つの特徴が見られ、頭文字から「3G」政権と呼ぶ声もある。既存政治の打破を掲げるトランプ氏は、共和党主流派と距離を置き、独自の人脈から選んだ側近らブレーンを中心に政権運営を進めるとみられる。

 「大富豪、ゴールドマン・サックス、将軍。『3G政権』だ」。民主党のマカスキル上院議員はトランプ次期政権をこう命名した。

 ほぼ固まったトランプ新政権の陣容で、目をひくのは大金持ちが多いことだ。

 米ボストン・グローブ紙のまとめでは、閣僚でもっとも金持ちなのは教育長官に就くベッツィ・デボス氏。義父が直販大手アムウェイ創業者で総資産は51億ドル(約6千億円)。ウォール街の「再建王」と呼ばれる投資家のウィルバー・ロス次期商務長官の総資産は25億ドルだ。トランプ氏本人も37億ドルで負けていない。

 グローブ紙によると、昨年内定した閣僚の総資産の合計は少なくとも131億ドル(約1兆5300億円)に及ぶ。オバマ現政権の5倍、ブッシュ前政権(末期)の34倍になる。

 次に目立つのが、金融大手ゴールドマン・サックス(GS)出身者だ。

 ホワイトハウスの経済政策の司令塔となる国家経済会議(NEC)議長に、GSのゲーリー・コーン前社長兼最高執行責任者(COO)を起用。財務長官には、元GS幹部でトランプ選対の「金庫番」を務めたスティーブン・ムニューチン氏を指名した。

 ログイン前の続きトランプ氏は選挙中、「私はビジネスの世界で成功した。何も成し遂げていない政治家らとは異なる」とアピールした。政治経験の豊富な人物より、自身と同じようなビジネスの成功者を好んで選んでいる。

 ただ、トランプ氏の勝利を支えたのは、かつて栄えた製造業がさびれてしまった「ラストベルト」(さびついた地帯)の白人労働者とされる。富豪や起業家が集まった政権が、大規模減税や規制緩和など「企業寄り」の政策を進めてもラストベルトの景気改善につながるかは分からない。

 オハイオ州選出の民主党ブラウン上院議員は「億万長者の大統領が、億万長者に向けた政策を持つ億万長者に囲まれている。この組閣は、トランプ氏の公約を破るだろう」と皮肉る。

 もう一つの特徴は、将軍・軍人の重用ぶりだ。

 国防長官には、イラク戦争などで指揮を執り、「狂犬」の異名を取るジェームズ・マティス元中央軍司令官(元海兵隊大将)を起用。外交・安全保障政策を統括する国家安全保障担当大統領補佐官に元国防情報局長のマイケル・フリン氏(元陸軍中将)を充てた。

 米メディアは、これほど元将軍を重用するのは、南北戦争後の1869年に発足したグラント政権以来と指摘する。

 トランプ氏は「私は軍人を強く信頼している」と話す。これに対し、ニューヨーク・タイムズ紙は「文民によるリーダーシップをとる制度のバランスを失わせる」と警鐘を鳴らす。

 トランプ氏は「米国は世界の警察官ではいられない」と話し、イラク戦争も「中東を不安定化させた」として開戦すべきではなかったとの立場だ。一方で、第2次世界大戦中に原子爆弾の開発・製造を加速させた「マンハッタン計画」になぞらえ、「就任初日に米海軍再建のマンハッタン計画を開始する」と語り、米軍増強も訴える。「将軍重用」政権が、いかに外交・安全保障政策を進めるのかは未知数だ。(ワシントン=佐藤武嗣、五十嵐大介)

■家族の意見重視 長女イバンカ氏と夫がカギ

 ビジネスにおけるトランプ氏の判断に、家族の意見を重視する特徴が指摘される。政権運営でも、家族の影響力が注目される。

 トランプ氏の5人の子どものうち、最初の妻との間に生まれた3人は、自身の中核企業「トランプ・オーガニゼーション」の副社長に就く。3人とも政権移行チームに名を連ねる。

 とくに目立つのが長女のイバンカ氏(35)だ。大学を出てすぐにトランプ・オーガニゼーションに就職し、トランプ氏が司会を務めた人気テレビ番組「アプレンティス」にも出演。トランプ氏が「娘でなければ、デートをしていた」と語るほどの寵愛(ちょうあい)を受ける。昨年7月の共和党大会でも、父親を紹介する演説を担った。米メディアによると、多い時には1日5回も電話で話す関係で、大統領選でも副大統領候補の人選や陣営の意思決定で大きな影響を与えていたという。

 イバンカ氏は「イバンカ・トランプ」というブランド名で宝飾や洋服の販売を展開。かつてインタビューで「トランプの名字にはすごく価値がある。『ぜいたく』と『成功』に深いつながりがある」と語るなどトランプ一族の知名度を活用してきた。本人の著書では、両親の離婚を機に意図的に父親と接するようになり、より親しくなったと振り返っている。

 イバンカ氏には選挙後、ホワイトハウスの役職があてがわれるのではと取りざたされたが、本人はテレビのインタビューで「新政権には入らず、娘として関わる」と話した。その上で「選挙で熱意をもって訴えた問題があり、そのために戦い続けたい」と言及、有給の産休の実現などを指すとみられる。すでにワシントンで住む家を選んだ。トランプ氏の妻のメラニア氏は子どもの学校のために当面はニューヨークにとどまるため、イバンカ氏が事実上のファーストレディーを務めるとの観測もある。

 イバンカ氏の夫ジャレッド・クシュナー氏(35)も政権のカギを握る存在だ。敬虔(けいけん)なユダヤ教徒で、トランプ氏は、中東和平の交渉を委ねる可能性にも言及している。

 経済誌フォーブスは「この男がトランプを当選させた」との見出しで独占インタビューを掲載。シリコンバレーの人脈などを活用し、支持者の掘り起こしなどを担い、選挙戦の全体図を描いていたと報じた。

 クシュナー氏は、ニューヨークを拠点とする「不動産王」の息子という点でトランプ氏と共通点がある。父親が04年に訴追され、脱税などを認めて収監されたため若いころから会社を担い、06年には自分の資金で地元紙「ニューヨーク・オブザーバー」を買うなど、事業を拡大してきた。

 クシュナー氏を長時間インタビューしたことのあるニューヨーク・マガジンのガブリエル・シャーマン氏は、クシュナー氏について「若いころから、いかに権力を握るかを考えてきたと感じた」と話す。「冷静で礼儀正しいが、同時に冷たく、ごうまんな部分もある。気になるのは、自分が何を知らないのかを、知らないタイプの人間ということ。不動産業者としての評価はまちまちで、新聞経営も成功はしていないが、義父が大統領になることで何でもできると考える可能性がある」と指摘する。

■要職に「異端」の3氏

 トランプ氏は「最後に話を聞いた人の意見を重視する」と言われる。政権の意思決定は少数の側近の声が影響する可能性が高い。ただ、既存政治の打破を掲げ、共和党主流派とも距離を置くトランプ氏の周りには、通常の政権なら入るべき党所属議員やシンクタンクなどの識者の姿は少なく、「異端者」が集まる。

 大統領上級顧問兼首席戦略官に就くのはスティーブン・バノン氏。米海軍やGSを経て、過激な記事が並ぶニュースサイト「ブライトバート・ニュース」の会長から、トランプ陣営のトップに移った人物だ。白人至上主義や人種差別的とされる記事も多数掲載しており、「避妊は女性を醜くし、狂わせる」などと女性蔑視の記事で物議を醸したこともある。

 バノン氏は選挙期間中、ほとんどメディアに姿を現さなかった。選挙後のインタビューで「知られないことが大切」「政治は戦争だから、テレビに出なかった」と発言。今後も陰の存在として動きそうだ。

 国家安全保障担当の大統領補佐官に就任するフリン氏も異端だ。元陸軍中将で、イスラム主義に敵意をむき出しにする。ツイッターで「イスラム教を恐れることは理にかなっている」と発信。講演でも「イスラム教は宗教ではなく、政治だ」「イスラム主義は悪質ながんだ」などと述べている。

 一方、経済政策の分野では、新設の国家通商会議の議長に就く米カリフォルニア大アーバイン校教授のピーター・ナバロ氏と、商務長官になるロス氏の2人が中心的存在だ。

 昨年、トランプ氏の経済政策についての論文を共著。為替操作や不公正な貿易をしているとして中国を敵視。改善しなければ高い関税をかけることも辞さない考えを示した。

 とくにナバロ氏は、経済問題のほとんどは中国に起因すると訴える対中強硬派だ。著書「中国による死」を映画化した映像では、中国製のナイフが米国地図を切り裂くと、血が流れ出るシーンで始まる。トランプ氏も選挙戦中に「中国が雇用を奪っている」と主張。トランプ政権の対中政策がどうなるのか注目される。(ニューヨーク=中井大助)
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