サウジアラビア政府サルマーン国王来日(2017/3/12)
中東調査会公開日:2016/04/26
 4月25日、サウジアラビア政府は、サルマーン国王主宰による閣議を開き、経済開発評議会(ムハンマド・サルマーン副皇太子が議長)が作成した2030年までの経済改革計画「ビジョン2030」を承認した。同日、ムハンマド・サルマーン副皇太子が同計画について記者会見で発表した他、『Al-Arabiya』放送においてインタビューに答え、石油依存型経済から脱却し、投資収益に基づく国家を建設していくことを強調した。発表された同計画における目標は以下の表のとおりである。また、これらの目標を達成するための手段として、国営石油会社サウジアラムコの5%未満の新規株式公開(IPO)、民営化による透明性の向上と汚職抑制、軍事産業の育成による国内調達の軍装備品支出の割合を50%まで拡大、外国人による長期的な労働・滞在を可能するグリーンカード制度の5年以内の導入などがあわせて発表された。
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サウジアラビアの経済改革案については、今年に入ってからムハンマド・サルマーン副皇太子が欧米メディアとのインタビューにおいていくつかの案を明らかにしており、今回の発表の新規性は乏しい。しかし、改革の最大の目玉となっているサウジアラムコの新規株式公開(IPO)については、企業の資産価値は試算で2兆ドル以上あるとされており、その規模の大きさゆえに世界的な注目を集めていた。『Al-Arabiya』とのインタビューにおいて、同副皇太子は、例えアラムコの1%のIPOであったとしても史上最大のIPOになると豪語し、これを昨年6月に外国人投資家へも開放したサウジの株式市場で公開することで(詳細は「サウジアラビア:株式市場の外国人投資家への開放」『中東かわら版』No.40(2015年6月16日)を参照)、市場規模を倍化させ、更なる資金流入が起きることを狙っていると述べた。
 「ビジョン2030」では、「活気ある社会」、「盛況な経済」、「野心的な国家」という3つの柱が立てられ、それぞれにおいて達成目標が具体的な数値で示された。全体に貫かれている方針は、石油依存型経済から脱却し、投資や観光、製造業、物流など経済の多角化を目指すことであり、民間企業(特に中小企業)の役割を拡大させることで新たな雇用を創出し、国民の生活水準を向上させることにある。これらの目標は、長らくサウジ国内でも議論されていた課題であったが、その改革は遅々として進まなかった。今回、具体的な数値目標とともに2030年という時間的な達成期限が設けられたことは、改革に向けたサウジ政府の本気度として捉えることが出来よう。
 他方、こうした目標が達成されなければ、それは政府への批判に結びつくことになり、改革の旗振り役となっているムハンマド・サルマーン副皇太子への打撃にもなる。特に、観光部門の拡大や女性の権利拡大を巡っては、国内の保守派と対立することが予想される。同副皇太子は禁止されている女性の車の運転を認める方針であると報じられているが、4月10日、サウジの大ムフティーであるアブドゥルアジーズ・アール=シャイフは、女性の車の運転について女性を危険に晒すものとして明確に反対する立場を表明した。4月22日付の『Bloomberg』でのインタビューにおいて、同副皇太子は、本件について宗教機構との間に問題は発生していないと述べているが、両者の立場が異なることは明らかである。こうした反対勢力をいかに懐柔し、改革を現実のものにしていくかが、今後サウジ政府に問われることになるだろう。
(村上研究員)