ロシアの雇われハッカーが暗躍、カタール断交、
米にも事前に相談
佐々木伸 (星槎大学客員教授)WEDGE REPORT   2017年6月12日 
 ペルシャ湾岸のカタールとサウジアラビアやエジプトなどとの対立は一段と激化してきた。断交の引き金になったカタール首長の発言はロシアのハッカーが暗躍してフェーク・ニュースに仕立てた疑いが濃厚になったほか、トランプ米大統領がサウジなどから事前に相談を受けていたことも分かり、陰謀の様相が一層深まっている。

画像(iStock)
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フリーランスのプロ

 この問題を追っている米ニューヨーク・タイムズによると、カタール政府からの依頼で捜査をしていた米連邦捜査局(FBI)や英国のサイバー・テロの専門家は、カタール国営通信QNAのハッキングがコンピューターに外部から侵入され、「バハムト」というフリーランスのロシア人ハッカー集団によって実行されたことをほぼ突き止めた、という。

 タミム首長が5月23日に軍士官学校の卒業式で行ったとされる発言が断交の直接的な引き金とされてきたが、その発言自体が仕組まれたものであったことになり、カタール批判を強めるサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)などがこのハッカー集団を極秘に雇ってハッキングさせた可能性も取り沙汰されている。

 問題となったタミム首長発言は5月24日の真夜中過ぎにQNAのウエブサイトに掲載された。その内容は、カタールと米国が緊張した関係にあり、トランプ政権が短命かもしれないこと、パレスチナの原理主義組織ハマスの称賛、サウジと敵対するイランとの友好関係の推進など、GCCの一員としては驚くべきものだった。

 ニュースの掲載からわずか20分後には、サウジのメディアなどで反カタール・キャンペーンが始まり、識者のインタビューを流す用意周到ぶりで、前もってカタールに対する断交の決定が準備されていたことをうかがわせている。

 このロシアのハッキング集団はこれまでにもサイバー攻撃事件で再三にわたって浮上した組織。特定の人間を標的にしたフィッシング詐欺が得意なことで知られていたが、その実態は謎に包まれている。

 この偽ニュースの掲載から数日後、今度はUAEのユセフ・オタイバ駐米大使のメールがハッキングされて流出する事件も起きた。同大使はトランプ大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー大統領上級顧問と近い関係にあり、カタールがイスラム過激派を支援しているとして、ホワイトハウスに売り込んできた人物。今度は逆に、カタールが報復に出たのではないかとの憶測も呼び、さながら“サイバー戦争”の様相すらある。
知っていたトランプ

 カタールを取り巻く状況に新たな事実も分かってきた。トランプ大統領は9日、サウジなどによるカタール断交について、事前に相談を受けて知っていたとし、米国の了承の下で事態が動いたことを明らかにした。

 カタールは米国に、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する空爆作戦の拠点であるアルウデイド空軍基地を提供しており、軍事的には極めて重要な役割を演じている。しかし、トランプ氏はこうしたカタールの特別の地位にもかかわらず、サウジなどの支持に回ったことになる。

 トランプ大統領は先月のサウジ訪問の際、サルマン国王との個人的な関係を強化しており、国王自身からカタールの「イスラム過激派支援」について相当吹き込まれ、その時点からサウジがカタールとの関係断絶に踏み切ることも知っていたと見るのが合理的だ。

 トランプ氏は断交直後からサウジ支持をツイートしたが、9日も「カタールが国家の上層レベルで過激派へ資金を提供してきた」と批判。断交は必要な措置であり、カタールがテロへの支援を止めて責任ある国家に復帰するよう要求した。

 しかしこのトランプ大統領の強硬発言はティラーソン国務長官が反カタール陣営にカタールとの対話を呼び掛け、カタールに対する“封鎖”を解除するよう要求したわずか1時間後に行われた。このため、米政府内部が混乱しているのではないかとの憶測を呼んだ。

 これについてホワイトハウスの高官は「大統領はテロの抑止に、国務長官は外交に重点をおいて発言しただけ」で、政策は一貫していると弁護した。一部には「グッドコップ(国務長官)、バッドコップ(大統領)の役割を演じている」(米紙)との見方もある。

 しかし、ティラーソン国務長官とマティス国防長官は8日、異例なことに朝食を共にし、その後、一緒に大統領に会いにホワイトハウスに向かっており、政権の良識派が制御不能な“トランプ対策”を錬ったのではないかとも見られている。

 いずれにしても今回の事態は、サイバー・テロがロシアや北朝鮮のようなサイバー国家の独占ではなく、フリーランスのハッカーに報酬を払って仕掛けることができる可能性を浮き彫りにしたといえる。カタールをめぐるペルシャ湾岸の対立は米国ばかりか、地域大国であるイラン、トルコ、イスラエルをも巻き込もうとしており、その展開から目が離せない。
 【修正履歴】
1ページ目4段目、6月5日を5月24日に修正しました。
(記事引用)

したたか者の流儀
カタール断交、“関ヶ原”間近の様相
2017年6月17日パスカル・ヤン (著述家)wedge
自分の会話が盗聴されていると確信したことがその後何度かある。始めての経験は、1995年クウェートのホテルでのことだ。CNNを見ていると、カタールでクーデターがあったといっている。大至急バハレーンの本社に電話した。数人でホテルからスピーカーフォンで話していた。カタールに出張者がいないかどうか確かめたあと、クーデターという言葉を三回使った段階で電話は切れてしまった。やはり、独裁色の強い中近東ではクーデターはもっとも心配していることなのだろう。建国以来世代の交代は、二度ともクーデターでなされた国がカタールだ。
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カタールの首都ドーハ(iStock)
 1995年に起きたカタールのクーデターは、1971年国家成立の翌年、自分の父が外遊中にクーデターを起こして成功したのがハリーファで、1995年に息子ハマドに今度は自分がクーデターで放逐されたのだ。

 このカタールが、2022年末のサッカーワールドカップの開催国となっている。今回、2014年に続いて、近隣の国である、サウジアラビア、バハレーン、UAE(アラブ首長国連邦の略称、アブダビ、ドバイなどが連邦のメンバー)から国交を断絶されたので激震が走っている。

 この4カ国にクウェートとオマーンを加えたアラビア湾岸の6カ国は、対岸でシーア派の領袖イランを意識してGCC(Gulf Cooperation Council)、すなわち「湾岸協力理事会」を形成しているが、そこの仲間で国交断絶とは穏やかではない。

 しかし、この地区ではサウジアラビアが長兄とすれば、バハレーンは長兄に物心共に頼っている末っ子であるが、カタールは、無血とはいえ二回の世代の交代がクーデターでなされたように気の荒い次男坊というこことだ。カタールは陸上でサウジアラビアと国境を接している、過去に銃撃戦もあったようだ。また、バハレーンとは、島の領有権をめぐっての争いが続いていたこともある。
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 その一方で、イスラエルに一時とはいえ大使館を開かせるなど隣国の神経を逆なですることが続いたのであろう。今回の国交断絶の直前にサウジアラビアを訪問したトランプ大統領はサウジアラビアに対してイランを意識した12兆円規模の武器輸出をOKしており、平和裏に国際社会への復帰に意欲を見せるイランに冷や水をかけているとしか思えない。

 しからば、秩序を乱すカタールも懲らしめるチャンスとみたのか、カタールも何らかの工作をしたのか、ロシアの陰謀に意図的に踊った国があるのか、結論はまだでていない。

 カタールと中部電力とのLNG長期契約は有名だが、光ファイバーや半導体製造の陰の主役、ヘリウムの一大供給国でもあるため、日本の産業界への影響がでてくるだろう。

 
一方、孤立しているカタールに対して救援の手を差しのべているのがイランということだ。農地のないカタールで250万人の食料を確保しなければならない。淡水化設備があるとはいえ、スイート・ウォーターも必要であろう。イランは、カタールの本来の仲間であるスンニ派の対立軸の反対の国とはいえ、カタールにとっては背に腹は代えられないところだ。トルコもカタール側に参戦することになるだろう。

どちらのサイドにつくのか?

 さて、トランプ大統領中東訪問の余韻の中で起きている外交事案で裏にロシアも見え隠れしており、イランの介入もあり、新たにカタールとの国交断絶を宣言する国の数は増加している。逆に、その過程で、トルコはカタールサイドになるのだろう。

 米国はカタールに嘉手納のような巨大空軍基地を持ちながら、米国の大統領がカタールを過激派支援で非難するのも奇妙な話だ。イスラエルを入れると、因数分解もできないことになる。サッカーワールドカップを心配する向きがあるが、その前に中東の関ヶ原対決が起きることを心配するべきであろう。

 言葉では厳しくやり合っても普通は、次回のGCC会議にそれぞれ何食わぬ顔で参加し、日本語にならない間投詞「ヤニ」を多用しながら「サラマレコム(平和をあなたに)」「アレコムサラム(あなたにも平和を)」となるのであるが、今回ばかりはギャラリーが大勢いる中で見栄を切った手前、どちらも引き下がることはできない。

 ただしかなり厳しいサウジアラビアとイランのような国交断絶といっても、民間レベルのイスラム巡礼者は木戸御免となっている。この辺の機微は、よそ者にはわからない。特に日本人には難しい。ヘリウムガスの手当を怠りなく。

(記事引用)