「ブレードランナー」の呪い? 続編の企業の運命は
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)2017年09月29日 18:29
 SF映画の名作「ブレードランナー」(1982年公開)は、霧がかかった街並みにネオンサインが光る2019年のロサンゼルスが舞台だ。呪いと呼ばれる現象が見られるようになったのは、映画公開後。劇中の広告などに登場し近未来で成功を収めているはずの企業が、現実社会では次々と業績悪化の一途をたどっていった。
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 そのブレードランナーの続編「ブレードランナー2049」が、ライアン・ゴスリングとハリソン・フォードを主演に迎え来月全米で公開される。呪いが再び起こる可能性はあるのだろうか?

 1作目ではさまざまな業種の企業が呪いの餌食となった。劇中にロゴが登場した米ゲーム企業のアタリは1982年当時、家庭用ビデオゲーム市場の80%を独占。しかし映画公開から1年もたたないうちに業界は不況に陥り、同社は売れ残ったゲームソフトをニューメキシコ州の埋め立て地に投棄するまで追い込まれた。

 米ヘッドホンメーカーのコスも犠牲となった。劇中に製品が登場する同社は、1984年に連邦破産法第11章の適用を申請した。フードプロセッサーの老舗として知られる米クイジナートは映画公開直後に価格操作に関わる訴訟に巻き込まれ、和解後は破産裁判所の世話になった。劇中にロゴが登場する米RCAや米ベル・テレフォンにいたっては、両社ともすでに存在すらしていない。

 映画に登場する米パンナム航空が連邦破産法の適用を申請した1991年頃になるとこのジンクスも注目を集め、映画雑誌「プレミア」が「ブレードランナーの呪い」と題した記事を掲載したこともあった。そのプレミアも、2007年には廃刊した。

1980年代の時代背景も影響
 「ブレードランナー2049」の劇中にも、企業のロゴは登場する。今回注意が必要なブランドはウイスキーのジョニーウォーカー、ソニー、フランスの自動車大手グループPSA(旧PSAプジョー・シトロエン)のプジョー、そしてコカ・コーラなどだ。コカ・コーラは1作目にも登場したが、(1985年に看板商品コカ・コーラの味を変えて「ニュー・コーク」を販売する大失態をしたものの)無事に呪いを生き抜いた企業でもある。

 未来を舞台にする映画は、どのブランドがその時代まで生き残るかうまく予知することもある。映画「2001年宇宙の旅」(1968年公開)に登場するヒルトン、IBM、そしてゼネラル・モーターズ(GM)などのブランドは、現実の2001年を過ぎてもなお健在だ。

 ブレードランナーの第1作を監督したリドリー・スコット氏は広告業界で経験を積み、米アップルがスーパーボウル向けに制作したコマーシャル「1984」を担当したことで知られる。ブレードランナーでのスコット氏は「消費者主義が極限まで浸透した」ディストピア(暗黒郷)を描いたと、続編の製作を担当したアルコン・エンターテインメントのアンドリュー・コソーブ共同最高経営責任者(CEO)は話す。

 1982年当時に近未来の企業として紹介されたことが、そもそも呪いの始まりだったのかもしれない。1980年代は規制緩和、レバレッジド・バイアウト(LBO、買収相手先の資産価値やキャッシュフローを担保に融資を受けて当該企業を買収すること)、メディア企業の合併、株式の上昇、そして時に資産が一瞬で消えるようなこともあった時代だ。

 破産法の適用から立ち直ったコスのマイケル・コス最高経営責任者(CEO)は、「1980年代は奇妙な時代だった」と振り返る。同氏は84年にリストラ(事業再編)を行う必要があったのはブレードランナーのせいではないと話す。当時は「金利は18%まで上昇する中、会社は1200万ドル(当時のレートで約29億円)の負債があった」と明かす。

 航空業界の規制緩和が進んで格安航空会社との競争が激化したことも、パンナムの業績が悪化した一因となった。クイジナートも市場の変化に対応することができなかった。1989年に米コンエアーに買い取られ今も事業を続けるクイジナートのマーケティング・コミュニケーション部門ディレクター、メアリー・ロジャーズ氏は、「あの頃は資金面の問題もあったし、在庫の問題もあった。当時は製品の種類も多くなく、今の状況とはまったくちがう」と当時を振り返る。

「ブレードランナー2049」に登場する企業は
 「ブレードランナー2049」には、前作のストーリーの時点で実在していなかった企業やブランドは登場しないーー。アルコン・エンターテインメントのコソーブ氏はそう話す。「ブレードランナーの時間軸は独自の世界で継続しているからだ」という。

 スコッチウイスキー「ジョニーウォーカー」を展開する英酒類大手ディアジオは新作公開に合わせた広告キャンペーン内で、同商品を飲むハリソン・フォードの映像を大胆に利用する。ジョニーウォーカーは第1作の劇中に登場したものの、呪いの影響を受けずにその後も生き抜いたブランドだ。ディアジオのシニア・バイスプレジデント、ダン・サンボーン氏は呪いは知っているとしつつ、「これだけのカルト的な人気を誇る映画があることこそがポップカルチャーのおもしろいところだ。われわれとしては呪いは解くために存在するものだと考えている」と続ける。

 現在は18人の従業員で事業を続けるアタリも、「ブレードランナー2049」内でロゴが使われることを許可した。同社は新作公開に合わせて新たな据え置き型ゲーム機を発表する予定だ。アタリのフレッド・シェネCEOは自社がブレードランナーに登場する「レプリカント」(事前にプログラミングされた寿命よりも長く生き延びようとするアンドロイド)のようだと話し、「われわれがまだ価値を提供できる企業であることを示している。まだここにいるし、2049年になっても実在しているだろう」と述べる。

wsj.com By Don Steinberg
(記事引用)