シャープ・JDI液晶統合「新・日の丸液晶」に勝機はあるか(上)
2015年12月28日 ダイヤモンド
統合へ動き出したシャープの液晶事業と、日の丸液晶のジャパンディスプレイ。利害関係者の思惑が複雑に絡み、「消去法」での選択にも見える今回の統合は、日本の液晶産業に何をもたらすか。(「週刊ダイヤモンド」編集部 中村正毅) 
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「簡単に意思決定できる状態ではない。もう少し時間がかかる」

 2015年12月22日、経営再建中のシャープの支援を巡って、官民ファンド、産業革新機構の志賀俊之会長は、集まった報道陣に対してそう語り、支援方針の決定に向けて、当面は議論が続くとの見通しを示した。

 志賀会長が硬い表情で「複雑な案件」とも語ったその裏側で、一体何が話し合われたのか。

 外部の有識者を集めた産業革新委員会の議論と、シャープを資金繰りの面で支援する銀行側の動向を探ると、ある事実がくっきりと見えてくる。

 「設備の重複については、どう認識しているのか」

 関係者によると、革新委員会の席上、ある委員から革新機構側の幹部に対して、そうした問いかけがあったという。

 問いかけの意味するところは、シャープの液晶事業と中小型液晶を手掛けるジャパンディスプレイ(JDI)を統合させた場合、両社で14ある液晶工場を、機構としてどう整理をつける腹積もりなのかということだ。

 つまり、支援策についてはJDIとの統合を大前提にして話が進んでおり、すでに統合後に過剰になる生産設備にまで踏み込んで、議論をしていることになる。

では、なぜ官民ファンドの革新機構がシャープを支援する必要があるのか。理由は大きく分けて、二つある。

一つは、革新機構がJDIの35.58%の株式を保有する筆頭株主であること。14年3月に同社が上場するまでは、84.23%の保有株があり経営を差配してきた。

 そのため、シャープの事業が海外勢の手に渡り、強大なライバル企業が誕生することは、投資先のJDIが今後不利になり、投資回収がさらに遠のくことを意味するわけだ。

 当事者のJDIも、本間充会長が「シャープとの統合は拒まない」と繰り返し公言している。本間氏と、革新機構の執行役員でJDIの社外取締役も務める谷山浩一郎氏は、週1回必ず昼食を共にするなかで、シャープ支援について議論をしており、連携は十分だ。

 もう一つの理由は、経済産業省の意向だ。革新機構を所管する経産省は、日本の液晶産業の競争力強化を目指して、ソニー、東芝、日立製作所の液晶部門を統合し、12年のJDI発足を主導した経緯がある。

 その当時は、シャープの液晶事業も合流させようと、革新機構の首脳を2度もシャープの亀山工場に派遣し、頭を下げさせた。

 にもかかわらず、経営が悪化した今になって、シャープの支援はしないという判断は、JDIの存在意義すら否定し、経産省として競争力強化をうたってきた政策の一貫性を問われかねないわけだ。

最大の焦点は
担保付き借金の扱い方

 一方で、シャープの生殺与奪を握るみずほ、三菱東京UFJの2行はどういう立ち位置なのか。

 資金の出し手として、外資系ファンドや台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業が名乗りを上げ、シャープ液晶事業の争奪戦のように見えるが、海外勢がいかに高い金額を提示しようとも、銀行側が革新機構の支援案と天秤にかけることは、実際のところあり得ない。

 銀行首脳は語る。「われわれはかねて、変動の大きい液晶事業はシャープ本体からディタッチ(分離)すべきという考えだ」「その後は日本の銀行として、国内の(液晶)産業の成長、競争力を一番に考えて動いている」。

 換言すれば、支援に向けた視点も思いも、経産省・革新機構とすでに共有できているということだ。

何より2行は、シャープの液晶を構成するさまざまな部品・設備メーカーとも取引がある。計4000億円以上の貸出金回収を優先するあまり、海外勢への事業売却によって、部品調達網の見直しといったリスクがそうした取引先に及んでは、元も子もない。

 だからこそ、15年初頭から経産省幹部や議員たちと頻繁に接触し、革新機構を通じた支援の根回しを必死に続けてきたわけだ。

 そうして、シャープ液晶事業とJDIの統合による新・日の丸液晶の誕生は、消去法を繰り返す中で既定路線となった。

 残るのは、統合に向けた手続き論だけだ。中でも最大の焦点となるのが、シャープ本体から分離する液晶事業にひも付く借金だ。

 15年9月末時点で6385億円ある短期借入金のうち、71%に当たる4521億円に、液晶工場を中心にした担保が付いているだけに、分離は一筋縄ではいかない。

 今はその扱いについて「債権放棄」「債務の株式化(DES)」「資本性借入金への振り替え(DDS)」など、さまざまな方策を革新機構、銀行側がそれぞれ練っており、ときにメディアに情報を流して瀬踏みをするなど、綱引きをしている真っ最中だ。

 「これ以上、リスクをずるずると引きずるような支援策は、はっきり言って難しい」

 銀行首脳は、分離する液晶事業に借金の一部を移すことや、過少資本を補うためのDESに難色を示すが、旗色は決して良くない。

 なぜなら、15年5月に銀行主導で練り上げたシャープの中期経営計画が、半年もたたず頓挫したからだ。

 同年6月に、2000億円を投じてシャープ本体のDESに応じたものの、その後のさらなる経営悪化を踏まえると、銀行として一段のリスクを取らずして、革新機構から出資だけを引き出そうとするのは、機構側にすれば虫が良過ぎる話だ。

 銀行は経産省、革新機構からどこまでの支援を引き出せるか。東芝の赤字転落をきっかけに、シャープの家電事業再編まで引き合いに出し、支援の枠組みを広げようとする銀行と、一層のリスクテイクを迫る革新機構。

 両者が苛烈な神経戦を繰り広げる間にも、シャープの体力は日を追うごとに落ちていっている。

後編『シャープ・JDI液晶統合「新・日の丸液晶」に勝機はあるか(下)』
液晶事業再編に立ちはだかる供給過剰と過小資本の障壁
 
「今後の経営リスクを考えれば、4.5世代以下の工場は思い切った整理が必要だ」

 シャープの液晶事業に長年携わってきたOBの一人は、同業のジャパンディスプレイ(JDI)との統合を見据えた上で、そう話す。

 2016年以降、中国の京東方科技集団(BOE)や台湾の群創光電(イノラックス)、友達光電(AUO)など海外勢が、スマートフォン用など高精細(低温ポリシリコン、LTPS)の液晶を製造する、第6世代の工場を相次いで立ち上げるからだ。

 液晶が世界的に供給過剰に陥る懸念が強まる中で、ガラス基板サイズが小さく、競争力が劣る4.5世代以下の工場は、減損処理などのリスクが今後は一層高まる。

 両社の液晶工場を見渡すと、4.5世代以下は計8拠点。簿価を合計すると、1000億円以上にもなる。

 中には、両社とも成長戦略の柱としている自動車用の液晶パネルを手掛ける工場があり、品質面における「(自動車)メーカーからの認証手続きを考えると、すぐに整理するのは難しい」(同OB)。ただ、それでも一部は段階的に閉鎖・売却に向けて動かざるを得ないだろう。

 そのとき必要になるのは、減損などのショックを吸収できる、分厚い自己資本だ。

 JDIと、シャープから分離する液晶事業の自己資本の合計額は、推計で4000億円弱。ピーク時に1.2兆円を超えていたシャープ本体の自己資本が、主に液晶事業による損失によって、15年3月に400億円台にまで激減したことを踏まえれば、決して十分とはいえない水準だ。

 仮に1000億円規模で産業革新機構の出資があったとしても、そこに3000億円前後とされる液晶事業にひも付く借金が、“置き土産”のようにセットで付いてきた場合は、なおさら心もとない。

 革新機構が債務の株式化(DES)など、銀行に一段のリスクテイクを足元で求めている背景には、そうした要因もある。

 今後もし、交渉の過程で革新機構と銀行双方の腰が引け、中途半端な支援策で手打ちとなった場合、競争力のない既存工場の大半は温存され、新たな日の丸液晶連合の経営は、早晩行き詰まるだろう。

シャープとJDI技術融合の先に垣間見えるもの

 今回の統合は、革新機構を後ろ盾にして、好調なJDIが不調の続くシャープの液晶事業をのみ込むような印象を与えるが、実態はやや異なる。

 JDIでさえ、構造改革の途上にあるのだ。15年3月期の最終損益は、在庫評価損や工場の閉鎖による減損などが響き、122億円の赤字。直近の15年4~9月期も、3億円の最終赤字だった。

 実は、JDIには米アップルから工場の設備投資用に受け取った、ドル建ての債務がある。その一部は超円高時代の債務のため、為替相場が大きく変動すると、場合によっては返済時に数十億円単位の差損が出る財務構造になってしまっているのだ。

 iPhoneをはじめ、スマホ用液晶の事業そのものは好調だが、そうした過去の“負の遺産”が利益を打ち消し、内部になかなか蓄積されない歯がゆい状況にある。

 さらに言えば、JDIの15年の事業拡大は、アップルと中国・華為技術(ファーウェイ)向けがけん引しているが、その構図には、強い既視感すら覚える。シャープも14年秋までは、アップルと中国・北京小米科技(シャオミ)向けが好調だったのだ。

 本間充氏が会長に就任する以前、シャープの液晶事業との統合について、「スマホ向けに、G8の工場なんて必要ない」との声がJDIの社内で大勢を占めていた。G8とは最先端の第8世代の生産設備のことで、シャープの亀山第二工場に導入されているもの。改革途上のJDIにあって、過剰設備はリスクともなり得る。

 一方、シャープは予断を許さない状況になってきた。

 約400人──。関係者によると、15年に募集した3500人の希望退職者とは別に、見切りをつけたかのように、シャープを去っていった人数だという。

 液晶事業からも、優秀な技術者が相次いで抜け出す状況にあって、とうとう経営陣の間にも人心の乱れが目立つようになってきた。

 シャープの髙橋興三社長は今や、親密だった大西徹夫副社長とは目も合わせず、事務的な話を淡々とするだけ。旧三和銀行から送り込まれた役員は、旧富士銀行から来た役員の決裁権限を勝手に奪い、社内での影響力拡大にいそしむなど、足並みが乱れ切ったその様子は、病魔が巣食う企業の末期症状にも見える。

 これまで、シャープは酸化物半導体の「IGZO」による液晶の低消費電力化と中型パネルの高精細化に、JDIは「LTPS」でタッチパネル内蔵液晶のインセル技術に磨きをかけるなど、際立った技術力で存在感を示してきた。

 そして次世代ディスプレイの有機ELは、IGZOとLTPSの技術融合により、スマホ市場をさらに開拓する余地があるとされる。それだけに、新・日の丸液晶連合への期待は大きい。16年3月までに決まる針路の先にあるのは、勝機かそれとも沈滞か。
(記事引用)