タカタ製エアバッグの理不尽な余波、車検パニックは誰の責任か
● 当分、車に乗ることができない? タカタ製エアバッグの意外な余波
 タカタ製エアバッグ不祥事の意外な余波が、今ごろ起きることになった。国土交通省は、タカタ製の欠陥エアバッグを搭載しているリコール対象車両のうち、年式が古いものを中心に約94万台の車検を未改修のままでは通さないことを決定した。

 タカタ製エアバッグのリコールは国内最大規模で、範囲はトヨタ、日産、ホンダなど大半の自動車メーカーに及び、届け出台数は過去最多の1981万台。わが国の乗用車保有台数が約6000万台だから、リコール対象はおおよそ3台に1台であった。

 それでもすでに1700万台超の車については改修が終わり、残る246万台のうち、年式が古い94万台を5月以降このままでは車検に通さないと、国土交通省が決めたというのが今回のニュースである。

 このことで、一部の車の所有者に「車検パニック」が起きることが予想されている。おおむね次のような事態だ。

 中古車の持ち主が5月に入って、整備工場などに車検を依頼する。すると、そこで自分の車がリコールの対象になっていて、このままでは車検に通らないと知らされる。

 本来であれば、無償回収修理が行なわれるリコールだが、古い車種の対応部品がメーカー欠品で手に入らない。だから最悪の場合、オーナーが「当分の間、車に乗ることができない」と突然知らされることになる。車がないと通勤ができない環境の持ち主であれば、生活が成り立たずパニックに陥る可能性もあるというわけだ。

 そもそも、メーカー系のディーラーや中古車販売会社から車を購入した人たち、つまりメーカーから連絡が届く人たちは、その大半がすでに改修を終えている。これが「1700万人が対応済み」という数字の意味だ。

 逆に言えば、今回の車検にひっかかるであろう、まだ修理に応じていない車のオーナーは、(メーカー系列ではない)独立系の中古車屋さんで古い年式の車を購入したり、個人間売買で中古車を購入したり、ないしは引っ越して販売当初のディーラーがその行方を把握できていなかったりする人たち、ということになる。
 前回の車検もガソリンスタンドや近所の整備会社に頼んだという場合は、自動車の持ち主本人も、場合によっては車検を通したサービスマンも、そのリスクに気づいていないわけだ。そして車検パニックに直面するのは、最終的に情報弱者という構図になる。これがこの問題の深刻なところだ。

 思えば家電製品でも、似た構図の問題は起きてきた。老朽化すると一酸化炭素中毒を引き起こしたり、発火したりする恐れがあることがわかった暖房器具などが、全面回収となった事例がある。それでも100%の回収は無理である。

 そして、そのリコール問題も世間が忘れた頃になって、老人たちが住むグループホームが火災事故を起こす。原因がその暖房器具であり、そんなものがまだ残っていたということを、事件が起きて関係者が初めて気づくことになる。

● タカタ、国交省、オーナー… 「車検パニック」は誰の責任か

 自動車の場合は、車検というルールがあるがゆえに、こうした不幸を事前に防ぐことができる可能性がある一方で、強制的に車検で発見された未修理車が、一時的に使えなくなる危惧はある。ではいったいこの問題、誰の責任なのだろうか。

 そう、大問題を提起しておいて申し訳ないのだが、今回、もし車検パニックが起きるとすれば、それは残念ながら「自己責任」ということになる。それで仕事に出勤できなくなる、買い物に行けなくなり不便な状況になる、病院に通えなくなり病状が悪化する、といった状況になっても、それは自己責任だ。

 メーカーは販売した自動車に対して、製品面での責任を持つ。しかしその責任は、あくまで製品の不具合を無償で回収して修理するところまでだ。結果的に起きる二次的な経済損失まで負担するような責任はない。

 エアバッグをつくったタカタには本来、大いに責任があるのだが、すでに戦後最大と言われる倒産劇を起こしたことから、関係者にこれ以上の法的責任を問うことは難しい。

 また国の責任は、安全が保証できる車だけを街中で走らせることにある。むしろ今回のように強権を発動しながら強制的に未修理の車を炙り出すことで、中古車市場の安全が保証できるようになることはいいことだ。全ての車が車検を通過するにはそれでも2年かかるが、中古車を買うとロシアンルーレットのように不具合を持つ車が混ざっていて、消費者がそれを知らずに買っているという今のような状況は、いずれ消える。
 部品が手に入らない車のオーナーのための車検時の救済措置は、本当は考えたほうがいいのだが、むしろ国土交通省がこれまで踏み込まなかった、4月以前に車検を通してしまった車の安全性についての方が、その責任が問われるはずだ。

 とはいえ、日本を代表する大手自動車メーカーの、誰もが知っている有名車種の車を購入したにもかかわらず、それが車検に通らない上に自己責任を問われるという事態は、一般消費者にとってどのように割り切るべき問題なのだろうか。

● 「喫煙の是非」と似ている 車に乗ることの社会的責任

 この一件は、「自動車は便利だが、それを使うには社会責任が伴う」ということを、世の中が再認識するための教訓ではないかと私は思っている。

 経済学の逸話にこんな話がある。たばこをなくすべきかどうかという議論のときに使われる話だ。禁煙論者に対して、経済学者が次のような質問をするとしよう。

 「ある商品が存在する。この商品は使っている本人にとってはいいのだが、統計的に見れば、実は本人の寿命を短くしている。それだけでなく、家族の寿命や見ず知らずの人の寿命にもマイナスの影響を与えている。そういった商品は禁止すべきか?」

 たいていの禁煙論者は、この経済学者の質問に「即座に禁止すべきだ」と答えるだろう。そこで経済学者は「実はこの商品は自動車なのだが、それでも禁止すべきか?」と念のために確認する。それがこの話のオチになる。

 欠陥車が2000万台近く売られてしまったというのも不幸な話だが、その87%まで改修が済んでいることは、関係者の努力の成果とも言える。一方、まだ残っている246万台については、オーナーは万一の事故の際、本人だけではなく家族や知人などの周囲を巻き込む可能性がある。

 こうした状況を考えれば、今回の問題で起きる損失に対して責任を持つのは本人であると、言わざるを得ないのではないか。「割り切れない」と感じる人もいるかもしれないが、車の使用には社会責任が伴うのだから――。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
(記事引用)

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タカタ、高田社長退任 創業家からの社名も消滅
2018年4月12日13時14分 朝日新聞
 欠陥エアバッグ問題で経営破綻(はたん)し、民事再生手続き中の自動車部品大手タカタは12日、高田重久会長兼社長が退任し、後任の社長に野村洋一郎取締役が就いたと発表した。11日付。中国資本傘下の米自動車部品メーカー、キー・セイフティー・システムズ(KSS)への事業譲渡が完了したことに伴う。

特集:タカタ製エアバッグ問題
 野村氏は民事再生手続きの完了をめざす。

 本業の自動車部品を手がける会社は分離し、社名をジョイソン・セイフティ・システムズに変更。本社も東京から米ミシガン州に移した。創業家の名前を冠した社名は実質的に消滅することになる。

 KSSとは、リコールの原因となったエアバッグ部品を除くほぼすべての事業を15億8800万ドル(約1700億円)で売却することで合意していた。

(記事引用)