時代を記録する「小保方氏報道」.5
小保方晴子氏、手記出版で「作家」として復活? 
“第2の佐藤優”と出版界が食指2016年1月29日 11時33分   

 新たなる第一歩を踏み出した――1月28日、元理化学研究所の小保方晴子氏が手記を出版した。「あの日」(講談社)と題されたこの書には、騒動の最中、小保方氏が話せたくても話せなかったメディア・スクラム被害、そして前時代的なアカデミズムの“闇”がつまびらかに描かれている。手記が発表された1月28日は、2年前、騒動の発端となった「STAP細胞」が発表された日でもある。

 この小保方手記の出版化の報は、マスコミ界、とりわけ出版業界では大きな驚きをもって迎えられた。騒動以来、ずっと小保方氏を取材してきた週刊誌記者のひとりが語る。

「小保方氏、そして彼女の代理人弁護士の事務所にずっと書籍や雑誌への寄稿依頼を続けてきました。でも、いいお返事を頂くことはなかった。オファーはすべて断っているとのことなので……。今回、講談社さんは、相当、頑張られましたね。完敗です」

 事実、小保方氏に近い関係者の話では、新聞社、テレビ局、出版社などのマスコミ各社、芸能事務所からのオファーが、騒動の最中、引きも切らなかったという。

 そうした声を裏付けるかのように、大手出版社が発行する週刊誌の編集長は「小保方氏の連載企画を検討し、オファーを出したことがある」と語る。

「そもそも小保方氏は刑法上、罪を犯したわけではありません。騒動について“真実”は誰もわからないでしょう。何十年かたって彼女の主張が“真実”と認められる可能性もある。科学とはそういうものですから。なので理系に強い執筆陣として連載を持って頂くことも考えています。あれだけのネームがあれば作家としてもバリューは十分です」

 テレビ局や芸能プロダクションも同じだ。“タレント”起用を視野に小保方氏への接触を試みたが叶わなかったという都内芸能事務所幹部は、こう話す。

「元衆院議員で、現在はタレントとして活躍されている杉村太蔵さんの女性版、リケジョ(理系女子)という立ちです。科学をわかりやすく解説する、そんな新しいタレントとして活躍してもらおうと。テレビ番組でのMC、コメンテーターのほか、ご本人さえよければ、あのルックスです。女優、グラビア・アイドルとしても十分売り出せますよ」

 テレビ、出版、芸能の各社の話を総合すると、今、騒動の“号泣県議”野々村竜太郎被告のような刑法犯とは異なり、小保方氏の場合、実社会とは縁遠い学究社会でのトラブルで話題となったに過ぎない。なのでメディア露出へのハードルは低い。…

一連の騒動を遠因とする博士号剥奪という“悲劇性”もタレントとしての資質十分だ。小保方氏がメディアに“出やすい”環境は、すでに整えられつつあるという。

 さて今回、小保方氏による手記発表を、化学研究者たち、アカデミズムの世界ではどう捉えているのか。かつて小保方氏が所属した理化学研究所の関係者がさばさばとした口調でこう応えた。

「もう小保方氏は研究者人生に完全に見切りをつけたなという印象です。手記を出さなければまだ首の皮一枚、いばらの道ではありますが研究者としての道は残されていましたから」

 あまり現実的ではないが、大学や研究機関に属さずとも研究活動は一応続けられる。その研究を発表する場さえあれば、研究者ではいられるからだ。もっとも今、小保方氏を受け入れる権威ある学会はないかもしれない。しかし、いつか風向きが変わる可能性も捨てきれず、研究者として復活の目もわずかに残されていた。

「手記では、かつて小保方氏を指導した山梨大学の若山照彦教授に関する記述が目立ちます。これは新たな火種となりかねない。そんな手記を発表する小保方氏を迎え入れる学会は恐らくないでしょう。研究者としては終わりです」(前出の理研関係者)

 若山山梨大教授とは、騒動の最中、「小保方氏は自分の渡したマウスを使っておらず、別のマウスとスリ替えた」「私は小保方氏に裏切られた」とマスコミに語り、STAP細胞研究に関わりながらも、当時、小保方氏が“悪玉”と目されたのに対して、“善玉”と目された人物だ。その若山教授について、小保方氏は手記でこう述べている。

<若山先生が作った細胞を、若山先生ご自身が調べて「おかしい」と言っている異常な事態に(以下、略)>

<もし私がES細胞をSTAP細胞だと偽って渡していたのなら、もともと増殖している細胞が渡されていたことになり、若山先生が観察した、増殖能の低いSTAP細胞からの無限増殖する幹細胞への変化は起こるはずがなく、気がつかないはずはないのではないだろうか>

 騒動の当事者による一方的な話かもしれない。しかしここにもまた真実がある。冒頭部で紹介した週刊誌の編集長は手記を読み終えた後でこう述べた。

「この手記は、いわゆる“ムネオ疑惑”に連座、『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社刊)を著した元外務省主任分析官で作家として復活した佐藤優氏(56)を彷彿とさせます。理系版、女性版の“第2の佐藤優”になって頂きたい」

 作家かタレントか。…

アカデミズムの世界に“絶縁状”を叩きつけた小保方氏の手記出版で、マスコミ各社による“争奪戦”はますます激化することは間違いなさそうだ。

 小保方氏のメディア露出で、「STAP細胞」を巡る疑惑がつまびらかになる日もそう遠くはないのかもしれない。何が真実か。世論は固唾を飲んで見守っている。

(フリーライター・川村洋)
(記事引用)

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【小保方晴子氏『あの日』レビュー】描かれていたのは、少女マンガ的な半生とある人物への怒り
2016.1.29ダヴィンチニュース Ads by Yahoo! JAPAN
『あの日』(小保方晴子/講談社)
 真っ白な表紙に、センス良く配置された書体で「あの日小保方晴子」と書かれている。まるで名刺のようなデザインだ。だが悲しいかな。流通時についたのか、書店に平積みにされた本の2割程度がうっすらと汚れていた。なるべくきれいなものを選んで、レジに持っていくことにした。

 小保方晴子さんが手記『あの日』(講談社)を出版するという情報が、インターネット上に出回ったのは発売前日の1月27日。よくリークされなかったと関心しつつも、ちょうど甘利経済再生担当相の現金授受&接待疑惑で沸いていたこともあり、もはや「そういえばSTAP細胞って、結局なかったんだよね……?」程度の気持ちしか持てなかった。そもそも「あの日」って、一体いつのこと?

 ページをめくるといきなり「あの日に戻れるよ、と神様に言われたら、私はこれまでの人生のどの日を選ぶだろうか。一体、いつからやり直せば、この一連の騒動を起こすことがなかったのかと考えると、自分が生まれた日さえも、呪われた日のように思えます」とあった。……。

 さらに進めていくと、STAP論文指導者で、小保方さんの研究を支えるも2014年8月に自死した笹井芳樹氏をはじめ、守り抜いてくれた弁護士や医師など「私の先生」への謝辞が述べられていた。共同研究者だった、山梨大の若山照彦教授の名前はない。フツーなら巻末に後書き形式で述べることが多い謝辞が、前書きの段階で来るとは。表紙の清廉さとは裏腹に、どろどろした雰囲気が漂っている。

 全253ページの構成は大まかにわけると3つだ。まずは「全国模試での成績を見ても首都圏で最難関の国立大学付属高校等への合格は確実」にも関わらず受験に失敗し、無念の高校進学から早稲田大学をAO入試で合格したなど、自身の生い立ちについて書かれている(といっても、プライベートな話はほとんどない)。

 早稲田ではラクロスに励みつつも希望していた研究室に所属でき、卒業後は東京女子医大で再生医療を研究する。そこではラットを使って研究していたが、麻酔をかけて組織を採取し、低温になったラットを手のひらで包み込んで「どうか生きてください」と祈り麻酔から覚めるのを待っていたことに触れている。この時小保方さんは、「ラットがピクピクと動きを取り戻すのを見ると、ほっとした気持ち」になったそうだ。

 またある時は研究指導者のもとにボストンから来客があり、夕食会に同席したものの、普段は飲まない酒を注がれるままに飲み、畳の上で寝てしまった。会がお開きになり起こされるやいなや「アメリカに行きたい!」と言うと、その場でハーバード大の先生が名刺をくれた。留学費用が不安だったものの、早稲田と女子医大の先生方などが「私のために動いてくれた」そうだ。……なんというか終始、少女マンガによくある「優しくていつも一生懸命。だけどちょっとドジっ子のあたしが、持ち前のポジティブさでチャンスをつかんじゃった★」的なにおいが感じられてならない。

 次は東京女子医大からボストンのハーバードメディカルスクールに留学し、3人のエリート女子との交流や指導教員のチャールズ・バカンティ教授との出会いなどが描かれている。

 アメリカで「スフェア」という細胞塊がストレスによってOct4という遺伝子が発現することを確認し、心臓が高鳴った。しかし自身の研究にそっくりな研究を、東北大学に先に発表されて気落ちする。そこでキメラマウス作りに挑戦して答えを見ようと、帰国後は理化学研究所の扉を叩いた。ここからSTAP論文発表に繋がっていく、という一連の流れが説明されている。

 しかしこのあたりは「ポリメラーゼ連鎖反応」やら「スポアライクステムセル」やら、専門用語の羅列が続く。高校時代、理科の成績がたったの2だった私には、正直面白さを感じられない。文章も日々起きたことや人名をただ並べているので、「日記か!」と言いたくなるが、小保方さんの本業は物書きではない。なのでこれは仕方がないのかもしれない。

 そして残り約110ページを、STAP論文のねつ造やデータの改ざんが指摘され、科学者としての未来が暗転した「STAP騒動」について割いている。ここで主に書かれているのは、研究を主導していたのは若山照彦教授だったにも関わらず「全部小保方のせい」にされてしまったこと、理研の中の誰かが、彼女に不利な情報をマスコミに逐一リークしていたこと、NHKや毎日新聞をはじめメディアに連日追い掛け回され、心身共に疲弊してしまったことへの恨み節だ。とくに『捏造の科学者――STAP細胞事件』(文藝春秋)で2015年度の大宅賞を受賞した、毎日新聞の須田桃子記者に対しては、「「取材」という名目を掲げればどんな手段でも許される特権を持ち、社会的な善悪の判断を下す役目を自分が担っていると思い込んでいるかのようだった」と名指しで批判している。

 しかしそれ以上に強く言及しているのは、ある時「僕ばかり成功してごめんね。フフフ」と小保方さんに向かって言った、若山照彦教授についてだ。共同研究者の先輩にハシゴを外され、「捏造の科学者」として1人、いかに奈落に突き落とされていくか。詳細な描写のなかに、「悪いのは私なのか!」という怒りが込められているの読み取れる。

 誰がウソをついていて、誰が真実を述べているのか。STAP細胞が実用化する可能性は全くないのか、まだほんの少しでも残されているのか。残念ながら同書を読むだけでは判断つきかねる。しかし小保方さんが「科学ってもっと優雅なものだと思っていた」と言うと、「やっぱりお前はバカだな。こんなどろどろした業界なかなかないぞ。もうやめろ」と答えた理研の相澤慎一氏の言葉から、堕ちた奈落の深さが感じられる。そのぞっとするほどの深みは、決して簡単に這い上がれるものではない。そんな後味の悪さが、この本の一番の特徴なのかもしれない。

文=玖保樹 鈴
(記事引用)