元グーグル社員が告発…スマホ中毒者を量産するための「ヤバい手口」 スロットマシンと一緒
【佐藤優】2020年2月3日 6時0分 現代ビジネス

なぜかスマホが気になる
『デジタル・ミニマリスト』はインターネットとの付き合い方に関して深く考察するとともに実践的指針を示した優れた作品だ。著者のカル・ニューポートは米ジョージタウン大学准教授でコンピューター・サイエンスの専門家だ。

〈生活に受け入れた当初はそれぞれごく小さな役割しか担っていなかった新しいテクノロジーが、全体ではいつの間にかそれを大幅に超える存在になっていたという、より分厚い現実と正面から向き合ったとき初めて不安の理由が鮮明になる。

それらのテクノロジーは、私たちの行動や気分に及ぼす影響力をじわじわと強めてきた。そしていつしか健全な範囲を超えた量の時間がそれに食われ、その分、もっと価値の高いほかの活動が犠牲にされている。(中略)
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私が知るかぎり、日常のなかのオンラインで過ごす部分に振り回されている人々の大半は、意志が弱いわけではないし、愚かなわけでもない。順調なキャリアを歩むプロフェッショナルや勉学に励む学生、愛情に満ちた父親や母親ばかりだ。

みな能力が高く、目標達成に向けて懸命に努力するのがふつうだと思っている。ところが、日常のいろいろな場面で顔を出すほかの誘惑は退けられるのに、スマートフォンやタブレットのスクリーンの奥から手招きしているアプリやウェブサイトにはなぜか抵抗できず、本来の役割をはるかに超えて生活のあちこちに入りこまれてしまう〉

というニューポート氏の指摘はその通りだ。

実は利用者を依存させる仕組みがスマートフォンに組み込まれている。

「カリスマ」の内部告発
2017年4月のCBSテレビのドキュメンタリー番組「60ミニッツ」においてアンダーソン・クーパーが行ったインタビューが興味深い。少し長くなるが重要な箇所なので正確に引用しておく。

〈インタビューの相手は、きちんと手入れされた無精髭に薄茶の髪の細身のエンジニアだ。

シリコンヴァレーの若年層から圧倒的な支持を得ている人物で、名前はトリスタン・ハリス。スタートアップを起業したのち、エンジニアとしてグーグルに勤務していたが、用意された道を自らはずれ、テクノロジー業界という閉じられた世界ではきわめてまれな生き方を選択した―内部告発者となったのだ。

「こいつはスロットマシンなんです」インタビュー開始からまもなく、ハリスは自分のスマートフォンを持ち上げてそう言う。

「スロットマシン? どういう意味でしょう」クーパーが訊き返す。

「携帯をチェックするのは、“さあ、当たりは出るかな”と期待しながらスロットマシンのレバーを引くようなものだからです」ハリスは答えた。「ユーザーが製品を使う時間をできるかぎり長くするために(テクノロジー企業が)使うテクニック集が存在するくらいです」

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「シリコンヴァレーは、アプリをプログラミングしているのでしょうか。それとも人をプログラミングしているのでしょうか」クーパーが尋ねる。

「人を、です」ハリスは答える。「テクノロジーは善でも悪でもないとよく言いますよね。どのように使うかを決めるのは使う側だという意味で。しかし、実際にはそうではなくて―」

「テクノロジーは中立ではないということですか」クーパーが質問をはさむ。

「中立ではありません。ユーザーに一定の方法で長時間使わせることを目的としています。企業はそこから利益を得ているわけですから」〉

利用者がスマートフォンを間断なくチェックするように依存させることによって、テクノロジーは金儲けを考えているのだ。その結果、利用者は、刺激的な情報に次々触れることによって、受動的になってしまい、思考能力を失う。また、インターネットを通じた他者の評価が気になり、リアルな人間関係を失ってしまう。

このような状況から抜け出すために、ニューポート氏は以下の提案をする。

1 30日のリセット期間を定め、かならずしも必要ではないテクノロジーの利用を休止する。

2 この30日間に、楽しくてやりがいのある活動や行動を新しく探したり再発見したりする。

3 休止期間が終わったら、まっさらな状態の生活に、休止していたテクノロジーを再導入する。その一つひとつについて、自分の生活にどのようなメリットがあるか、そのメリットを最大化するにはどのように利用すべきかを検討する。

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実際、この方法を実践して、スマートフォンへの依存から解放された人の例がいくつも出ている。いずれも説得力がある。

あえて“スロー”を意識することによって、より質の良いニュースが得られるようになるとニューポート氏は強調する。

〈“スロー”を意識してニュースメディアを受け入れるには、第一に、そしてほかの何よりも、最高に質の高い情報ソースだけを選び抜いて注意を向ける必要がある。

たとえば何か大きな事件が起きたとき、速報系のサイトのニュースの質は低くなりがちだ。それよりも、ジャーナリストがある程度の時間をかけて情報を分析してから書くニュースのほうが質が高い。

少し前に名の知られたジャーナリストが話していたことだが、ツイッターで流れてくる速報を追っていると大量の情報を手に入れたような気にはなるが、彼の経験からいえば、翌朝まで待って《ワシントン・ポスト》紙の記事に目を通すほうが同じニュースについてはるかによく理解できるという〉

この指摘もその通りと思う。インターネットで真偽不明の情報を追うよりも、新聞を読んだ方がずっと良質のニュースを得ることができる。

もっともインターネットで新聞のニュースを追っているとかなり時間を取られることになる。その場合は、テレビで池上彰氏の解説番組を見るといい。これで必要な情報はほとんど入手することができる。