全産業のソフトウェア化で既存企業がさらされる脅威 
作成者: CHIKAWATANABE
渡辺千賀 2016年03月17日 08:15 
全産業のソフトウェア化いま世界は、全産業がソフトウェア化していく過程にある。差別化要因がハードからソフトに移行する中で、高付加価値なソフトを開発する力のない企業は廃れていくという現象が今後たくさんの業界で起こっていくと考えられている。問題はそれがどれくらいのスピードで起こるかだが、私の読みは10-15年、というところ。(そう思う理由はまた別途書きます。)

画像http://ryugakuusa.blog.jp/
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Worldという文章を寄稿した。この”software eats the world”という表現のインパクトもあって、未だに語り継がれる記事になっているが、その中でAndreessenはこう言っている。 
「ソフトウェア企業が経済の大部分を手に入れることになるだろう」と。

2013年にはGEのJack Immelt CEOが株主へのレターで以下のように「全ての製造業はソフトウェア会社になる」としている。

We believe that every industrial company will become a software company

すでにソフトウェア化した伝統産業
 
時々書いてきたが、アメリカには本屋もレコード屋もレンタルビデオ屋ももうない。(正確に言うとあるけれど頑張って探すレベル。かつての「どこにでも巨大チェーン店舗がある」という時代を知る若者はもういない。)どれもオンライン化してしまったからだ。

音楽

アメリカでの音楽ビジネスのデジタル化は驚くほど急速だった。CDの売上は1990年代後半にピークを迎えたのち急速に減少、2012年にはデジタル販売(ダウンロード+ストリーミング)がCD売り上げを超した。
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そして、1960年の創業以来拡大し続けた音楽の殿堂、Tower Recordsも2004年に破産、2006年には事業清算となる。(Tower Recordsのリースの一部を買ったのが冒頭の写真のRasputin Musicという怪しい名前の中古CD屋である。Rasputinはその後、Rasputin Music & DVDとなり、さらに最近はRasputin Music & DVD &Booksとなって、「デジタル化したハードプロダクトの終焉の地」になっている。)

ビデオ

2004年に9000店舗あったレンタルビデオのBlockbusterはNetflixに押されて2010年に倒産、事業は清算された。Netflixはいまや米国インターネットトラフィックの4割近くを占め、人気コンテンツのリリース時にはさらにその率は1割近く上がると言われている。


2010年時点で全国に500店舗以上あった書店チェーンのBordersは2011年に倒産、事業は清算された。もちろんAmazonにより淘汰されたわけだ。

他の産業のソフトウェア化は今後どう進むか
というわけで、音楽、ビデオ、本では、デジタル化・ソフトウェア化により伝統的大手企業のいくつかは倒産する事態となった。特に象徴的なのがいずれも「事業清算」という終わりを迎えていること。事業継続する買い手が見つからなかったのである。

上記はいずれも、そもそも売り物がデジタル化できるコンテンツだが、デジタル化できないものもソフトウェア化の波に飲まれている。
たとえば下のグラフはアメリカの音楽市場規模の推移。デジタル販売の普及で販売数は増加しているが、金額での市場規模は絶賛縮小中である。


出典:アメリカレコード協会のデータをMinnesota Public Radioがまとめたもの

たとえばダイヤモンド販売。Blue Nileという1999年起業のオンライン婚約指輪販売サイトにより街の個人経営の宝石店の多くはなくなったしまった。Blue Nileはハイエンド宝石で50%の市場シェアと言われている。アメリカでは「男性がこっそり指輪を買ってサプライズでプロポーズする」というのがまだ主流で、となるとダイヤモンドの良し悪しなど見てもわからない。それよりオンラインの文章情報でダイヤモンドを説明する売り方の方が人気になったのである。

「行って、見て、試して買う」のが当然と信じられてきた化粧品ですら、唐突に売上を増大させているオンラインベンチャーが登場している。「毎月定額払うとサンプルの詰め合わせが送られる」という原価タダ的グレートなビジネスモデルにより、創業4-5年で年商1億ドル(100億円超)になったIpsyやBirchboxがある。

というわけで、以上の例は

売るプロダクトそのものがデジタル化できるので、デジタル販売に取って代わられた
売るプロダクトは物理的なモノだが、オンラインサイト経由での販売に取って代わられた
ということになるが、さらに

デジタル化・ソフトウェア化により業界のあり方そのものが変革する
ということも起こり始めている。

たとえば宿泊とタクシー業では、それぞれAirBnBとUberが牽引するソフトウェア化が進展中だが、それぞれ「個人間ビジネス」という新しい事業形態を生み出した。さらに、すでにソフトウェアによるイノベーションが大きなシェアを占める自動車産業でも、今後さらに自動運転技術の台頭などにより、「自動車を所有する時代」から「移動をサービスとして享受する時代」への移行が進むと考えられる。

そしてこのソフトウェア化の波の恐ろしい点は、「業界全体が縮小する」という可能性を大いに含んでいることだ。

たとえば下のグラフはアメリカの音楽市場規模の推移。デジタル販売の普及で販売数は増加しているが、金額での市場規模は絶賛縮小中である。

後10-15年で同じような脅威を様々な業界が経験していくことになるだろう。デジタル化・ソフトウェア化によるコスト減に加え、所有からシェアリング・オンデマンドへの移行でハード需要そのものが減少するからだ。

「そういうこともいつかは起こるかもしれないけれど、まだまだ当面は今のまま続く」

と思っている方には、前述の倒産した音楽チェーン、Tower Recordsの創業者Russ Solomonの1994年の言葉をお送りしたい。

As for the whole concept of beaming something into one’s home, that may come along someday, that’s for sure. But it will come along over a long period of time, and we’ll be able to deal with it and change our focus and change the way we do business. As far as your CD collection — and our CD inventory, for that matter — it’s going to be around for a long, long time, believe me.

興味深いので全訳すると

「誰かの家に音楽をビームするというコンセプトについていうと、きっといつかそういう時代がくるとは思う。しかしそれには長い時間がかかるので、その間に我々もフォーカスをシフトし、ビジネスのありかたを変革することができる。普通の人のCDコレクションに関しては、これはまた我々のCD販売在庫でもあるわけだが、この形態は当然ながらずっと長い長い間続いていくだろう。」

こう語った10年後に倒産したわけですが。
(記事引用)