不思議なクーデター(トルコ)
野口雅昭2016年07月18日 11:12 中東の窓
トルコのクーデターについては、これまでも2度ほど、どうも不思議なクーデター未遂であったという趣旨のことを書いたかと思いますが、今になっても未だ、というか益々今回のクーデターが何であったのか、疑問ばかり募るというところです。
 
そもそもトルコ政府は、クーデターの首謀者がNY在住のgullen とかいうイスラム法学者だとしており、確かに彼の軍や司法その他に対する影響には大きいものがあり、、エルドアンの最大の政敵であったようです。

おそらく彼がクーデターの思想的背景なのかもしれませんが、クーデターの様に現実の兵隊や戦車や航空機を動かして、政府を乗っ取ろうとする陰謀は「子供の遊び」ではありません

・陰謀に加担するものが綿密な連絡を取り、それぞれの役割分担を決め、攻撃目標やその分担等詳しく決め、タイミングも決めたうえで、時代物映画なら合言葉まで決めるのでしょうが、今回も相当数の兵隊が動員されていますから、失敗した出来損ないのクーデターであったとしても、かなりの規模の組織があったものと思われます。
それを背後からgullen が操っていたとするのは、トルコの情報機関、米CIAの能力等からして、、ほぼ不可能でしょう。

 ・ということは現実に、トルコ国内でクーデターを計画し、組織し、参加者に指令を発した本部というか、指導者が必ずいるはずです。
ところが、あれから数日たち、多数の軍人等が逮捕されたにもかかわらず、今になるも首謀者(複数か?)の名前は発表されません。いくら何でも、トルコ政府がまだ実際の首謀者がだれかわからないということはないでしょう。 

・これに反して、逮捕の方は極めて手際よく進んでいるようで、高級軍人を含む多数の軍人、司法関係者、弁護士等、既に6000名が逮捕されたとのことです。このうち軍人に関しては、参加した部隊の連中とか、当然その関与が疑われるものは居るわけですが、それと合わせて100名を超える(でしたっけ?)司法関係者が逮捕された、というのはどうにも不思議なところです。
おそらく、彼らはgullen師の関係者ということでしょうが、まさか彼らが現実に背広で銃をとった訳でもあるまいし、あまりに手際のよい逮捕劇で、どこかきな臭い感じさえあります。

 ・京都からでは本当のところは、わかりませんが、一部のアラビア語メディアに、今回のクーデター鎮圧に最大の貢があったのは、情報機関と警察だとありました。
そのうち警察はともかく、情報機関については、国境地帯での対IS作戦等で、時々軍と違った動きをしていると報じられていたことを思い出します。

トルコの情報機関は極めて優秀(冷血?)という評価もありますが、その情報機関が鎮圧に貢献したとすれば、事前に何らかの情報をつかんでいたのでしょうか?
まさかそのうえでやらせて、一網打尽というシナリオは出来すぎていますが、どこか臭いことは事実ですね。

 ・種々推測に過ぎないことをあれこれ書いてきましたが、今回の事件で最大の得をしたのがエルドアンであることは間違いないでしょう。
彼は勢いをかって、死刑の復活を唱えているし、軍や検察や司法から彼の反対者を一掃し、一時は失敗した憲法の改正も再度試みるのではないでしょうか?

まあ、結果的にはエルドアン御独裁体制の強化と見て間違いないでしょうね
自作自演という声もあるようですが、今のところ、そこまで彼を疑う材料はないと思います。

 ・外国との関係では、クーデターはCIAの陰謀などという陰謀史観その物の見方をする人もいるようですが、少なくとも世界中のメディアの見るところでは、gullen の取り扱いをめぐって、米国はトルコとの間で深刻に厄介な問題を抱えたと評している通り、背後に米国があったとみる見方は単純な偏見でしょうね。

それよりも、hurryiert net は、今後の両国間関係の増強を巡り、プーチンとエルドアンが8月にも会談する可能性があると報じており、もしかすると得をしたのはプーチンかもしれません。

 ・まあ、いずれにせよ、日本も含めて世界中で、クーデター非難、選挙で選ばれた政府支持という合唱が満ち満ちていますが、それは当然の反応として、今後のエルドアンの動き如何では、彼に対する評価にも影響が出る可能性があるだろうと思っています。
http://www.hurriyetdailynews.com/#panel-6
http://www.alquds.co.uk/
http://www.alarabiya.net/ http://www.aljazeera.net/portal

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コメント一覧参考

6. 名無し 2016年07月18日 17:09
管理人さん
参考になる意見を頂き、ありがとうございます。
5. Hitoshi Yokoo 2016年07月18日 17:04
「クーデター」の真偽を確認する前に、エルドアンの置かれていた状況を考慮してみますと、エルドアンはこの状況にかなり危機感を持っていたと思われます。彼は、クルド自治運動を潰すため、南東部を破壊し続けていますが、クルド人の反エルドアン感情は高まるばかりで、国際世論もクルドサイドを支持しています。
個人的にも、彼はイスラム国の盗掘石油を売買して、私腹を肥やしていたことは公然の秘密です。
更に、言論弾圧は常軌を逸して、これも国際世論から厳しい批判を受けています。順調に成長を遂げてきたトルコ経済は、ここに来て失速し、海外からの観光客も激減し、このままいけば危機的状況を迎えることは必至です。

彼は大胆な策謀家です。シリア難民に市民権を与えてクルド自治運動を潰すことまで考える男です。
彼はこの状況の中で、国軍の総意に基づくクーデターを心底恐れていたと思われます。
彼が押さえている情報機関MITを通じて、その気配を既に察知していたのではないでしょうか。クーデターの経過を見ていますと、あまりに演劇的です。悲惨なのは、罠にはまった一部の軍人と利用された兵士たちです。司法関係者の手際よい大量粛清は、事前に綿密な検討がなされていた証拠だと思われます。

疑似クーデターは見事に成功し、真のクーデターを事前に潰したように思われます。彼の独裁傾向は更に強まり、そのことにより、トルコの国家的危機は深刻な事態に至ると思われます。

4. abu_mustafa 2016年07月18日 15:56
名無しの権兵衛様
クーデター騒ぎのあとで、冷静な、というか客観的に公平な裁判を期待するのはそもそもが無理でしょう。そんな例はあまり知りません。
確かにご指摘の通り、1952年のエジプト革命(と呼んでいるが実態はクーデター)の時には、旧王制関係者に対するあまり過酷な裁判はなかったので、冷静な裁定というのは可能かもしれませんが、それは所詮は政治的な判断によるもので、司法的判断によるものではないでしょう。
司法的判断による最悪のケースはエジプト裁判官のムスリム同胞団支持者に対する数百名に上る死刑判決でしょう。気違いじみています。
今回、エルドアンがどこまでクーデター未遂を利用して、独裁体制を固めるのか、せっかく中東では割かしまともな数少ない国であるトルコのことゆえ、気にしています。
3. abu_mustafa 2016年07月18日 15:48
名無し様
確かに建前上はトルコは今でもEU加盟を目指していますが、本心はどうでしょうか?
勿論トルコと言っても政府内でさえ種々の意見はあると思いますが、ギリシャ危機の辺りから、トルコの中ではEUに対する態度にかなりの変化が生じたように思います。
要するに、それまでの「恋する相手」から、「よく見たら大した相手でもなかったか?」とか、経済的にはむしろ自分たちの方が上だとなったり、シリア難民問題でも、カギを握っているという自負も出てきていると思います。要するにEUの容色が衰えて、魅力が減ったと思います。
今回のbrexit はさらにEUの魅力を失わせたと思います。
いずれにしても、トルコの中でもEU加盟支持の急先鋒は、今回のクーデター者、またはその支持者の世俗派だろうと思うので、エルドアンとしてはそれほど固執してはいないでしょう。
死刑復活と加盟とどちらかをとれと言われたら、死刑復活か難民合意の破棄かどちらかをとれ、と開き直る可能性がありそうです。
2. 名無しの権兵衛 2016年07月18日 12:54
まあエルドアンが陰謀を起こしたとは思わないものの災いと転じて福を為す、じゃないですけどこれを機に政権に不都合な人間も容疑をかけてる感じですね

こういう時こそ冷静な裁定(以前から弱体化はしているが)が期待されますが、司法も大量の裁判官の職務一時停止だの、反乱容疑でかなりの拘束があっただの混乱してますし今後政権の司法への圧力に拍車がかかるとなると期待できなさそうです

仏のエロー外相辺りはその辺かなり懸念したコメントを出してましたが 
1. 名無し 2016年07月18日 11:53
あまり陰謀論は好きではないのですが、今回のクーデターで得をしたのはエルドアンであることは間違いないと思います。
ただ司法関係者の大量逮捕等、過激とも行き過ぎともとれる行為に、EU等から批判されると思うのですが、EU加入を目指すトルコが死刑復活までするでしょうか?
もし復活するのであれば、EUに参加するつもりはないとも思えるのですが。
(記事引用)